(石狩国から十勝国へ三国峠を越えて)
距離: 117.4km
獲得標高: 1,120m
正味ライド時間: 6h10m
天候: 朝曇り(三国峠前から音更前まで雨)
気温:13℃/15℃
風:終始逆風(時々強め)
雨の気配と500mの登坂へ
朝6時45分、ホテルを出発する。 強めの逆風が身体を押し戻し、早くも気が重くなる。ここから標高差500m以上を駆け上がる不安と、三国峠の絶景への期待が胸の中で複雑に交錯していた。

📷 層雲峡のホテル前で出発の立ち姿 覚悟の朝 強風の中、北海道の大屋根・三国峠への上りが始まる
いきなり立ちはだかる3.5kmの長いトンネル。幸い交通量が少なく、無事に抜け切ることができた。 大函からの坂は想像以上に斜度がキツかったが、必死にペダルを回して大雪湖へ到着する。
昨日が移動休足日だったおかげか、お尻とハムストリングスのつなぎ目の痛みにはまだ余裕があった。しかし、サドルをさらに5mm下げた悪あがきも空しく、手の平の方は早々と悲鳴を上げ始めていた。
大雪湖の手前で北見方面と帯広方面への道が分岐する。帯広方面へ折れると、行交う車の数は極端に減っていった。

📷 大雪湖の佇まい 静寂の湖畔 キツい坂を耐え抜き、静かな水面を前に呼吸を整える
熊鈴とエゾ鹿、ポイントでの攻防
21km地点、路上で2匹のエゾ鹿とばったり鉢合わせた。 直前でこちらに気づいた鹿は驚いて距離を取り、じっとこちらを凝視している。手を振ってみても無反応だ。 バックパックに熊鈴を2つもぶら下げていたというのに、直前まで気づかれなかった。澄んだ高音の熊鈴だが、野生への効果には少しばかり首をかしげたくなる。 急に野性の懐深くへ踏み込んだ気がして不安になり、カプサイシンスプレーをウエストバッグのベルトへ移した。素早く撃てる構えをとる。

📷 こちらを凝視するエゾ鹿 野生との遭遇 熊鈴の音も虚しく、直前で互いに足を止める
三国トンネルが近づくにつれて勾配は容赦をなくし、ラスト3kmはあまりのきつさに自転車を押して歩く時間も増えた。 この頃から予期せぬ霧雨が降り出し、慌てて雨具を引っ張り出す。トンネルを抜けた十勝側は晴れていることを祈ったが、甘い期待は裏切られた。 峠までの31kmの上りに、4時間近くもの時間を費やしていた。

📷 三国トンネル出口の佇まい 雨のトンネル 激坂と霧雨を耐え抜き、命からがら峠のピークへ
濃霧の三国峠と濡れた下り
到着した三国峠は、一面の濃霧に包まれていた。 本来なら眼下に広大な樹海が広がるはずだったが、視界は真っ白だ。 峠のCafeに駆け込み、深煎りコーヒーをすする。温かい液体が冷え切った身体に染み渡っていく。

📷 濃霧に隠された三国峠の表示板 白い幻影 樹海の大パノラマはお預け。コーヒーの温もりが救いだ
ここから先は長い下り。本来なら風を切って爽快に飛ばしたいところだ。 しかし、道は濡れ、アイウェアは雨滴で視界が遮られ、何より路面状態がひどい。クラックやギャップ、轍に足をとられないよう、ブレーキを握りしめて慎重に下ることを余儀なくされる。
並走する鉄道がないこのルートでは、トラブルが起きてもリカバーが効かない。慎重の上にも慎重を期して下っていく。
姿を見せたタウシュベツと遺構
三国峠のガスがあまりに酷かったため諦めかけていたが、タウシュベツ川橋梁の展望所に立ち寄ってみた。 こちらは雨こそ降っているものの霧はなく、湖の中に佇むアーチ橋の姿をしっかり確認することができた。冷たい雨の中で見るその姿は、どこか神聖ですらある。

📷 タウシュベツ川橋梁展望所からの眺め 湖上の遺構 霧の晴れ間から姿を見せた古代ローマの如きアーチ橋
さらに進むと、旧国鉄士幌線の「音更川第三橋梁」が現れた。 廃線となって長い年月が経つというのに、今なおレールがそのまま敷設された状態で残されていることに驚かされる。

📷 旧国鉄士幌線 音更川第三橋梁 刻まれた鉄路 草に埋もれつつも力強く残るレールに往時を思う
試練の国道と帯広の夜
上士幌町に入ると、国道273号は路面が整備されており走りやすくなった。「やるじゃん上士幌」と心の中で暖かく称賛する。 広がる牧場、堆肥の匂い、刈り取られた草の香り。北の大地に抱かれている実感が湧き上がる。
……が、前言撤回だ。 道の駅上士幌の交差点から国道241号に入ると、途端に道は最悪の表情を見せた。 狭い路肩、高くうねる轍の山、窪みには水たまりが池のように広がり、そこへ容赦なく車が迫ってくる。どこを走れというのか。 雄大な景色の中を走りながらも、終始路面のギャップに神経をすり減らされる。これが北海道ライドの現実というものか。
命からがら帯広の街へ辿り着き、予約していたリッチモンドホテルへ。 朝食の美味さで選んだ宿だったが、自転車の保管場所を尋ねると「裏の木にくくりつけておくならOK。ただし自己責任で」という最悪のネットカフェ並みの塩対応をされた。ロードバイク乗りへの理解を期待したのが間違いだったか。自己防衛のためにも宿選びの事前確認は必須だと痛感する。

📷 十勝大橋を背景に立つ愛車 峠を越えて 雨と坂を耐え抜き、帯広の街へと無事滑り込んだ
夕食は気を取り直して、帯広名物の豚丼を流し込む。香ばしい蒲焼きのタレと豚肉の脂が疲れた身体を癒やしてくれる。
雨と劣悪な路面に苛まれた一日だったが、北海道の大屋根である三国峠を自分の足で越えられたのは深い感慨がある。
明日も天気は思わしくなく、道東の気温は一桁まで落ち込むという。 無理は禁物だ。十勝から道東へ回るルートは後回しにし、天候が安定しそうな室蘭本線沿いへと進路を変更することにしよう。
今日も無事に走り切った。それだけで十分だ。


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